第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /

【川辺一生 自選句 文月】(令和八年)

 

梅雨晴れや友の文よむ幾たびも

 

  子規庵

糸瓜(へちま)なき棚より仰ぐ夏の空

 

  箱根

滴りに目覚める朝の閑かさよ

 

寝過ごして窓いっぱいの青田かな

 

夏河を葉の流れゆくかなたかな

 

夏旅のあと生活の音ばかり

 

側溝を棺にねむる目白かな

 

  命日

七月の夜風のはこぶあなたかな

 

閑かなる故人の書架や蝉時雨

 

あの日のままの時計みつめる夏の果

 

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【詩を書く入門2】詩作に必要なもの

 

私家版の詩集を

大切な友人たちに贈った

 

「読んでみたい」という声を

もらったことも嬉しかったが

 

もっと驚いたのは、

読んでくれた友人たちから

手紙が届いたことだった

 

どの手紙にもそれぞれの人生が

告白するように綴られていた

 

その手書きの文字の

ひとつひとつに

 

涙がにじんでいるような

気がした

 

うれしいという感情をこえて

何か荘厳な、神聖なものに

ふれている感覚が襲ってきた

 

真の手紙はその本性からして詩的である

ノヴァーリス

 

その詩人のことばの持つ意味を、

衝撃と共に味わい直していた

 

「ことばは出たところから

出たところへ届く」という

 

頭で考えた言葉は

ひとの頭へ届き

 

こころから出たコトバは

ひとのこころにふれ

 

たましいの叫びは

ひとのたましいを震わせる

 

手紙という形で届いた

友人たちのことばは

どれもうつくしい詩だった

 

かけがえのない、

たましいのことばだった

 

詩を書くときに大切なのは

特別な才能でも難しい語彙でもない

 

ことばの出どころだ

 

こころの底から

たましいの深みから

ことばを掘り当てること

 

つたないことばでも

素朴なことばでも

かまわない

 

あなたが生きてきたことばを

紡ぐこと

 

それが、

詩を書くということの

本質であり、よろこびなのだ

 

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【俳句を詠む日々 第八回】無知の知

 

歩道の側溝に

1羽の目白が死んでいた

 

黄緑の片翼を少し広げて、

その下に目をつぶっている

 

表情に苦はない

 

閉じた目は

薄墨をさっと引いたように

やわらかく、

ただ静かにねむっている

 

その安らかな死顔に

ふっと一つの句が脳裏をよぎった

 

冬蜂の死にどころなく歩きけり

村上鬼城

 


鬼城の句を思い出したのは、

眼前の景色との対比ではなかった

 

むしろ、その連続性を

感じたためだとおもう

 

死にどころなく彷徨った

あの冬蜂の行き着いた果てが

 

この目白の死の

やさしさではなかったろうか

 


ひとは未知ゆえに死を恐れる

痛みゆえに苦しみを恐れる

 

だが、

その目白の閉じられた眼は

ただひとすじに柔らかかった

 

側溝を棺にねむる目白かな

ねむる目のやさしきことよ目白逝く


一生

 

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【川辺一生 自選句 水無月】(令和八年)

 

この風や若葉のこえが寄せて引く

 

そよ風に落ちる若葉のはやさかな

 

ふるさとの夕焼広き駅舎かな

 

帰るべき夏の灯もなき故郷かな

 

薄日さす部屋の片隅桜桃忌

 

沖縄忌薄日の照らす世界かな

 

五月雨や窓辺に憩ふ仮病の子

 

てのひらを薄日の照らす梅雨曇り

 

日常がこぼれおちてく梅雨の空

 

初蛍あなたのこえを忘れてく

 

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【詩を書く入門1】詩作がはじまるとき

 

人生の転機において

ひとは言葉を失う

 

よろこびも

かなしみも

 

ほんとうは

言葉にはなりえないから

 

だからこそ、

人はそれを

言葉にしようとして

詩を書くのかもしれない

 

ゆえに詩を書くときは

絶句からはじめるのがいい

 

言葉になりえない

自らの経験を探してみるのだ

 

遠い日の大切な想い出

忘れえぬ痛みの記憶

 

それらを思い起こすことから

詩は動き出す

 

詩は人の考えるように感情ではない

詩はほんとうは経験なのだ

ライナー・マリア・リルケ

 

詩の素材となる経験を

思い描いたのなら

 

すぐに詩を書いてみよう

 

形式は意識しなくても

大丈夫

 

ことばが溢れるままに

書いてみればいい

 

もしそれが難しいのなら

おすすめの方法がある

 

「出さない手紙」を

書いてみることだ

 

真の手紙はその本性からして詩的である

ノヴァーリス

 

真摯に書かれた手紙は

自ずと詩になる

 

大切な人

もう会えない人

あるいは過去の自分に

 

ほんとうは

伝えたいこと

 

伝えたかったのに

伝えられなかったこと

 

そうした

言葉になりえないおもいを

 

出さない手紙に

託してみる

 

それがうまい詩かどうかは

あまり関係がない

 

あなたが納得するまで

書ければそれで十分だ

 

書き終えたら

一晩寝かせてみよう

 

翌日、

書いた手紙を

読み返したとき

 

あなたのことばに

あなた自身が驚くはずだ

 

それが、

あなたの詩なのだ

 

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【手仕事で紡ぐ、ただひとつの詩集】

 

今月はじめ、

詩集『えらんだ明日、やさしい昨日』(※)

を出版した。

 

一冊ずつ大切な人たちに

贈っている。


今回の詩集を形にする上で、

できるだけアナログな製本が

してみたかった。


わたしという人間、

その唯一性を歌うのが

詩であるなら、

 

詩集も手製本で

つくってみたかったのだ。


結果、「フレンチリンクステッチ」という

糸かがり綴じを採用した。


印刷した用紙を折り

表紙を糊付けし

折り目に穴をあけ

麻糸を通していく


詩集を「編む」という表現が

文字通りの意味なのだと、

ひと針ずつ糸を通しながら感じる時間。

 

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失敗を繰り返しながら

ひとつひとつの工程に

コツをみつけ、

 

自分なりの作業の流れも

出来上がっていく。


手間はかかる。

全工程に1週間はかかるし、

出来映えも毎回違う。


だがそれは、

この世でただひとつの詩集が

誕生することも意味する。


縫い目の形も、

本の形も微妙に違う。

 

そこには

かけがえのない個性が宿るし

自然と愛着も湧く。

 

すべてが均質化していく社会が

忘れてきた、

 

モノの固有性と尊さ、

 

そんなことを

手仕事は教えてくれる。

 

受け取った人たちが、

世界でひとつだけの詩集を

愛してくれたらと願いながら、

 

短い手紙を添えて

詩集を送り出している。

 

(※ 私家版のため、販売は予定しておりません。)

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