この風や若葉のこえが寄せて引く
そよ風に落ちる若葉のはやさかな
ふるさとの夕焼広き駅舎かな
帰るべき夏の灯もなき故郷かな
薄日さす部屋の片隅桜桃忌
沖縄忌薄日の照らす世界かな
五月雨や窓辺に憩ふ仮病の子
てのひらを薄日の照らす梅雨曇り
日常がこぼれおちてく梅雨の空
初蛍あなたのこえを忘れてく

この風や若葉のこえが寄せて引く
そよ風に落ちる若葉のはやさかな
ふるさとの夕焼広き駅舎かな
帰るべき夏の灯もなき故郷かな
薄日さす部屋の片隅桜桃忌
沖縄忌薄日の照らす世界かな
五月雨や窓辺に憩ふ仮病の子
てのひらを薄日の照らす梅雨曇り
日常がこぼれおちてく梅雨の空
初蛍あなたのこえを忘れてく

人生の転機において
ひとは言葉を失う
よろこびも
かなしみも
ほんとうは
言葉にはなりえないから
だからこそ、
人はそれを
言葉にしようとして
詩を書くのかもしれない
ゆえに詩を書くときは
絶句からはじめるのがいい
言葉になりえない
自らの経験を探してみるのだ
遠い日の大切な想い出
忘れえぬ痛みの記憶
それらを思い起こすことから
詩は動き出す
詩は人の考えるように感情ではない
詩はほんとうは経験なのだ
ライナー・マリア・リルケ
詩の素材となる経験を
思い描いたのなら
すぐに詩を書いてみよう
形式は意識しなくても
大丈夫
ことばが溢れるままに
書いてみればいい
もしそれが難しいのなら
おすすめの方法がある
「出さない手紙」を
書いてみることだ
真の手紙はその本性からして詩的である
ノヴァーリス
真摯に書かれた手紙は
自ずと詩になる
大切な人
もう会えない人
あるいは過去の自分に
ほんとうは
伝えたいこと
伝えたかったのに
伝えられなかったこと
そうした
言葉になりえないおもいを
出さない手紙に
託してみる
それがうまい詩かどうかは
あまり関係がない
あなたが納得するまで
書ければそれで十分だ
書き終えたら
一晩寝かせてみよう
翌日、
書いた手紙を
読み返したとき
あなたのことばに
あなた自身が驚くはずだ
それが、
あなたの詩なのだ

今月はじめ、
詩集『えらんだ明日、やさしい昨日』(※)
を出版した。
一冊ずつ大切な人たちに
贈っている。
今回の詩集を形にする上で、
できるだけアナログな製本が
してみたかった。
わたしという人間、
その唯一性を歌うのが
詩であるなら、
詩集も手製本で
つくってみたかったのだ。
結果、「フレンチリンクステッチ」という
糸かがり綴じを採用した。
印刷した用紙を折り
表紙を糊付けし
折り目に穴をあけ
麻糸を通していく
詩集を「編む」という表現が
文字通りの意味なのだと、
ひと針ずつ糸を通しながら感じる時間。

失敗を繰り返しながら
ひとつひとつの工程に
コツをみつけ、
自分なりの作業の流れも
出来上がっていく。
手間はかかる。
全工程に1週間はかかるし、
出来映えも毎回違う。
だがそれは、
この世でただひとつの詩集が
誕生することも意味する。
縫い目の形も、
本の形も微妙に違う。
そこには
かけがえのない個性が宿るし
自然と愛着も湧く。
すべてが均質化していく社会が
忘れてきた、
モノの固有性と尊さ、
そんなことを
手仕事は教えてくれる。
受け取った人たちが、
世界でひとつだけの詩集を
愛してくれたらと願いながら、
短い手紙を添えて
詩集を送り出している。
(※ 私家版のため、販売は予定しておりません。)

(四月)
少年のわれと目が合う春の川
「儚い」とあなたが言えば散る桜
花ちるや目が合う今朝のうすみどり
花屑の名残や道の片隅に
どこかまだなみだひきずる春の風
こもれびを木の葉の上に散るさくら
春疾風しがみつく葉の今日あした
囀(さえずり)のこだま消えゆく夜のはて
囀のこだまや覚める今朝の夢
春日傘いつもの道のまぶしさに
(五月)
ひと裁く正義とはなに花茨
それぞれの若葉のこぼす朝日かな
今日生きて今日の色あり金糸梅(きんしばい)
夕焼やあなたは雲になったのね
病葉(わくらば)やSNSの鋭き言葉
やさしさもクーラーも効きすぎている
(中東情勢、二句)
青嵐色を喪う菓子袋
薫風(くんぷう)に祈りをのせる届かずとも
愛はいつも素朴なことば風薫る
もういちどひと信じたし聖五月

母、命日(二句)
亡きひとよ春雨の音きくたびに
鐘の鳴る梅一輪の墓前かな
春雨の泣き尽くしてや地に空に
雑踏や動かぬ蜂に雨は降る
ひだまりにひと知れずふる春落葉
春の日は葉のひとひらも見逃さず
春の虹空の青さをおもいだす
一輪の桜やよぎる人のうえ
それぞれの家族のなかへ散る桜
かなたまで菜の花堤ひかりけり

苦しむたび
与えられる
ささやかな
気づき
受け取ろうと
差し出す
やさしさの
てのひら

(令和六年)
春の夜に落ちる涙の音を聴く
春の雲亡きひと探す昼下がり
今だけは夜桜閉ぢよ涙落つ
詩をよむは生きんがためなり初桜
たんぽぽの首折れてあり道の端
あたたかや嵐の跡の光る道
涼風のめくるページに今日を書く
亡き祖父の下駄ころころと夏越かな
爆心地蝉ノナクコエ聴キニケリ
寺の門叩いて果つや秋の蝉
初七日の合わす手慣れず秋の蝉
秋風や運びしこゑは死者なりき
秋高し鳥飛ぶ空のさらに先
こおろぎの消えゆく声や道の闇
てのひらに老鳥逝きし夜寒かな
詩を詠んでいのちをつなぐ冬はじめ
日向ぼこうつらうつらと葉のみどり
葉のいのち匂ひたちけり冬の雨
原爆ドーム
冬の日の苔むす瓦礫照らしけり
(令和七年)
亡きひとの手を握りけり春の夢
母の遺句つぶやく道を春の雪
春雨の洗ふ古木の月日かな
めにうつるものみなひかる春の水
なんどめの君亡き五月来たるかな
弥陀仏のてのひらほどの牡丹かな
端居して風にことばを託すかな
片蔭の橋渡りゆくこの世かな
祈るべき星なき夏の夜空かな
夏の夜や独りで生まれ独り死ぬ
亡き人に出せぬ手紙を秋の風
秋風に死者も生者もなかりけり
ひぐらしの鳴かぬ都会にある不安
秋の暮行き先知れぬ旅路かな
鰯雲幾千万の先祖かな
天に触れたるところから紅葉散る
手を離すこころはしづか紅葉散る
おもふほど落葉の如きいのちかも
北風の手折りし枝に葉の震え
水仙にやがて去りゆく日のひかり
冬田道友と別れしこの辺り
歩みゆく己が影追う冬の暮
