クーラーの音鷗外のデスマスク
脱衣所の小窓に風が今朝の秋
千葉豪雨、二句
冠水の濁りへ消える秋の蝉
道に残る無人の車虫の声
祖父の復員
秋蝉(しゅうせん)や見下ろす墓に自分の名
八月十五日
虫の声死者の願いの響きあり
ひと知れず旅立つ今朝や秋の風
あけぼのや蜩(ひぐらし)の声ただひとつ
秋風や母の小言もなつかしく
こおろぎや亡きひとのこえかもしれず

クーラーの音鷗外のデスマスク
脱衣所の小窓に風が今朝の秋
千葉豪雨、二句
冠水の濁りへ消える秋の蝉
道に残る無人の車虫の声
祖父の復員
秋蝉(しゅうせん)や見下ろす墓に自分の名
八月十五日
虫の声死者の願いの響きあり
ひと知れず旅立つ今朝や秋の風
あけぼのや蜩(ひぐらし)の声ただひとつ
秋風や母の小言もなつかしく
こおろぎや亡きひとのこえかもしれず

初秋の頃、上宮聖徳太子への憧れやまず、
法隆寺に百済観音を拝して詠める
斑鳩(いかるが)の
上宮(かみつのみや)の 夢の跡
暗き御堂(みどう)に 天高く
おはしましたる みほとけは
幾歳月(いくとしつき)の かなしみを
その身に受けて 落剥(らくはく)の
高き眼(まなこ)に わが魂(たま)を
かき抱きつつ 安かれと
微笑みたまふ ひかり満つ
射通したまふ 炎(ほむら)立つ
畏(かしこ)きかげに 慄(おのの)くは
罪と傷との わが両手(もろて)
合はせるときの そのせつな
仰ぎ見しかば みほとけの
微笑(えみ)を流るる なみだひとすじ


梅雨晴れや友の文よむ幾たびも
子規庵
糸瓜(へちま)なき棚より仰ぐ夏の空
箱根
滴りに目覚める朝の閑かさよ
寝過ごして窓いっぱいの青田かな
夏河を葉の流れゆくかなたかな
夏旅のあと生活の音ばかり
側溝を棺にねむる目白かな
命日
七月の夜風のはこぶあなたかな
閑かなる故人の書架や蝉時雨
あの日のままの時計みつめる夏の果

私家版の詩集を
大切な友人たちに贈った
「読んでみたい」という声を
もらったことも嬉しかったが
もっと驚いたのは、
読んでくれた友人たちから
手紙が届いたことだった
どの手紙にもそれぞれの人生が
告白するように綴られていた
その手書きの文字の
ひとつひとつに
涙がにじんでいるような
気がした
うれしいという感情をこえて
何か荘厳な、神聖なものに
ふれている感覚が襲ってきた
真の手紙はその本性からして詩的である
ノヴァーリス
その詩人のことばの持つ意味を、
衝撃と共に味わい直していた
「ことばは出たところから
出たところへ届く」という
頭で考えた言葉は
ひとの頭へ届き
こころから出たコトバは
ひとのこころにふれ
たましいの叫びは
ひとのたましいを震わせる
手紙という形で届いた
友人たちのことばは
どれもうつくしい詩だった
かけがえのない、
たましいのことばだった
詩を書くときに大切なのは
特別な才能でも難しい語彙でもない
ことばの出どころだ
こころの底から
たましいの深みから
ことばを掘り当てること
つたないことばでも
素朴なことばでも
かまわない
あなたが生きてきたことばを
紡ぐこと
それが、
詩を書くということの
本質であり、よろこびなのだ

空爆に
吹き飛ばされ
ストレッチャーの上で
息絶えた
生後三ヶ月の
キリル 君の
その血だらけの
ちいさな手は
力なく
ひらかれていたんだ
目にみえない
祈りを
握ってるみたいに

歩道の側溝に
1羽の目白が死んでいた
黄緑の片翼を少し広げて、
その下に目をつぶっている
表情に苦はない
閉じた目は
薄墨をさっと引いたように
やわらかく、
ただ静かにねむっている
その安らかな死顔に
ふっと一つの句が脳裏をよぎった
冬蜂の死にどころなく歩きけり
村上鬼城
鬼城の句を思い出したのは、
眼前の景色との対比ではなかった
むしろ、その連続性を
感じたためだとおもう
死にどころなく彷徨った
あの冬蜂の行き着いた果てが
この目白の死の
やさしさではなかったろうか
ひとは未知ゆえに死を恐れる
痛みゆえに苦しみを恐れる
だが、
その目白の閉じられた眼は
ただひとすじに柔らかかった
側溝を棺にねむる目白かな
ねむる目のやさしきことよ目白逝く
一生

この風や若葉のこえが寄せて引く
そよ風に落ちる若葉のはやさかな
ふるさとの夕焼広き駅舎かな
帰るべき夏の灯もなき故郷かな
薄日さす部屋の片隅桜桃忌
沖縄忌薄日の照らす世界かな
五月雨や窓辺に憩ふ仮病の子
てのひらを薄日の照らす梅雨曇り
日常がこぼれおちてく梅雨の空
初蛍あなたのこえを忘れてく
