第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

エッセイ③ 夏の匂い 秋の声

雨は、やんでいた 駅の改札から外に出ると、 アスファルトはどこも濡れて 黒く光っている 並木道に沿って歩いてゆくと、 そこかしこで木を伝って落ちてきた水滴が 地面をとつとつ、と打っている 涼風が顔を打ち 小粒のしずくがパラパラと 肩に落ちてきた 湿…

エッセイ② 夏のかおり

窓の外は 傾いた陽の朱色がすでに遠い マッチを擦ると、ぱっと炎がはじけるように輝いて ほの暗い室内を一瞬、明るくした しぼんだ小さな火を竹串状の線香に近づける 先端が淡くにじんだように、ぼんやりと燃えはじめ、 白煙がすうっと、昇った 沈香の匂いが…

エッセイ① 茜の空

書店から外に出ると 調整池の向こうの空に 茜が差していた その明暗がちょうどターナーの絵のように鮮やかで、 彼は吸い寄せられるように欄干のそばに来ると、 腕をもたせて、ぼんやりと彼方を眺めた 一日のほとんどを屋内で過ごす彼にしてみれば、 日頃見る…