書店から外に出ると
調整池の向こうの空に
茜が差していた
その明暗がちょうどターナーの絵のように鮮やかで、
彼は吸い寄せられるように欄干のそばに来ると、
腕をもたせて、ぼんやりと彼方を眺めた
一日のほとんどを屋内で過ごす彼にしてみれば、
日頃見ることのできぬ素朴な、美しい景色であった
久々に空をみた
とさえ思った
「一体、どれだけの空を見過ごしてきたのだろう」
彼はそうつぶやかざるを得なかった
労働を頭ごなしに否定するほど
彼は自分の中に思想を持ち合わせてはいなかった
ただ、自然の美しさから隔絶された生活には
やはりどこか息がつまる想いがするのだった
R5. 09.16