第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

【エッセイ13】手紙

「けいちゃん、学校行こう」 おかあさんの声。 ふとんをかぶって、きこえないふり。 ぼくはひきょうだ。おかあさん、ごめんね…。 朝はきらいだ。 ぼくは、いつも、ひとりぼっちだから。 * イチカは、元気な十二歳の少女。 いつも遊びながらケラケラ笑う。 …

【俳句を詠む日々 第一回】祈りを詠む

祈り、という営み それは、ひとの本能的欲求かもしれない 近頃そう感じている 中尊寺金色堂の阿弥陀如来坐像を 拝観した 金色の阿弥陀さま 涼やかな眼差し ふっくらとした頬 その包み込むような佇まいは 慈愛そのもの 御仏の前に 涙を流したひと 御仏の慈愛…

【エッセイ12】白い花

暮れてなほ白際立ちて花辛夷(はなこぶし) 母の遺した句には、 季節の花が詠みこまれている事が多かった。 母の命日の今日、墓前に供えようと、 一枝の花辛夷を買った。 辛夷は、かわいらしい白い花を咲かせていて、 母が愛した理由が、わかる気がした。 電車…

【エッセイ 11】よむ

祖母が亡くなって、二月(ふたつき)。 心は虚(うつろ)で、ただ流れてゆくばかりの 毎日に、焦りが募っていた。 読書だけが、かろうじて自分を つなぎとめてくれる気がした。 魂の飢えを満たしてくれることばを、 毎日探し求めては、むさぼるように本を読んだ…

【エッセイ⑩】笑顔の系譜

父は、わたしの名前を呼んだことがない。 言葉を交わしたのも、片手に収まるほどだった。 それがどうやら異質な事だと気づいたのは、 小学生の頃。 友達と彼の父親が、笑顔で会話する姿を 目の当たりにした。 呆然とたたずむしかなかった。 初めてみるその光…

【エッセイ⑨】内なる平和

母の葬儀から帰ってきた。 散らかったワンルーム。見慣れた部屋が重かった。 窓辺をみると、掛け時計が割れて転がっている。 同じだ、と何故かぼんやり想った。 * 涙の冷たさで、目が覚める毎日。 後悔と嘆き…。その繰り返しだった。 その日も、なんとはな…