第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【エッセイ16】三位一体

(大地) 箱根の温泉街を抜けて、 川沿いにある蕎麦屋の外で、 順番を待っている。 正面の庭に目を向けると、 細い楓の木に、小さな紅葉が、 冷たい雨に打たれている。 時々、気まぐれな山風も吹きつけて、 木を激しく揺らす。 それでもなお、しがみついて離…

【エッセイ15】遺句と返句

「永遠の記憶…永遠の記憶…」 午前中に教会で歌ったレクイエムが、 まだ頭に残っている。 その余韻に導かれ、母の部屋で 遺品を整理していた。 タンスの引き出しを開けると、 古びた写真に紛れて、 くすんだ革の手帳が一冊、眠っていた。 手帳を手に取って開…

【エッセイ14】春の陽

「あのさ、キモいんだよ。死んでくれない?」 言葉の暴力。冷たい言葉…。 この世界には、あたたかいことばも、 あるのかな。あったらいいな。 十三歳の冬は、とっても寒い、寒いんだ…。 * サオリは、十九歳の引きこもりの少女。 高校時代のいじめが原因で、…