第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【エッセイ20】道の色

生活を愛せなくなったのは、いつからだろう。 不登校の現場で、子どもに寄り添う。 それだけを考えながら、がむしゃらだった。 生活はいつもギリギリで、 それでも、楽しさと愛しさが優った。 悲しみに沈む子どもが、 笑顔になってゆく景色を、 神に捧げる日…

【エッセイ19】食卓の景色

幼年期の想い出がある。 夏休み、九州の祖父の家に帰省する。 日が昇ると、家族がぞろぞろと 茶の間に集まる。 それぞれの湯呑みに緑茶を淹れて、 盆に載ったクッキーや饅頭をつまむ。 話題にのぼるのは、 昨日あったハプニングや 今日の楽しい計画。 いつも…

【エッセイ18】未来のこえ

今までの道のりが、 すべて無意味だったとしたら…。 いつからか、そうした囁きが 心を捉えるようになった。 悲しみの中にいる子どもと共にいたい。 彼らが笑顔になる瞬間を、 神に捧げて生きていきたい。 その想いに導かれるままに、 がむしゃらに生きてきた…

【エッセイ17】そのことば

気づけば、自由はいつからか、 使い古されたベッドの上だけになっていた。 テレビの特集で「ひきこもる若者たち」が 連日、面白おかしく報じられ、 当事者のわたしは、 わずかに残っていたプライドも 捨ててしまった。 生きるに値しない人間は、 息を潜める…

【俳句を詠む日々】祈りを詠む②

復活祭の教会に足を運ぶと、 目の前で若い男性が祈っていた ミサのあいだに何度も体を深く曲げて頭を垂れ、 十字をかく そのたびに 手に持っているロウソクから蝋が垂れる いつもそうなのだろう 男性の革靴は、 蝋の跡がいくつも刻まれて シミになっている …