第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

【俳句を詠む日々】祈りを詠む②

 

復活祭の教会に足を運ぶと、

目の前で若い男性が祈っていた

 

ミサのあいだに何度も
体を深く曲げて頭を垂れ、

十字をかく

 

そのたびに

手に持っているロウソクから
蝋が垂れる

 

いつもそうなのだろう

 

男性の革靴は、

蝋の跡がいくつも刻まれて

シミになっている

 

なにを祈っているかは

知らない

 

だが、その祈りには

なにか切実さがあった

 

祈る人間には、わかる

 

その切実さは

 

悲しみに慟哭(どうこく)し

苦しみにうめき

 

その果てに

 

神を求めてやまない

人間の衝動そのもの

であることを

 

知性が優位の現代社会では、
祈りは無価値だ

 

それでも、

その男性の真摯な祈りに
愛すべき人間の姿を

わたしは、みた

 

復活祭靴に残りし蝋の跡

川辺一生

 

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※ 掲句は俳句てふてふに投句