第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

死に至る病

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デンマークの思想家セーレン・キェルケゴールによれば、人間には死に至る病がある。

 

絶望である。

 

映画『ロード・オブ・ザ・リング』は、絶望を描いた作品だ。

 

冥王サウロンに率いられた闇の軍勢が、平和な世界を襲う。

繰り返される戦争と虐殺。

絶望の闇が広がってゆく。

 

シリーズ2作目となる本作は、闇の軍団に蹂躙され、滅びゆくローハン王国の物語。

勇敢な男たちは倒れ、残されたのは女子供だけ。

ローハンの王セオデンは、角笛城に立て篭もり、最後の決戦に挑む。

 

愛するひと

うつくしいこの世界

そのすべてを守りたい。

 

わずかな祈りはやがて朝の光となり、戦場に夜明けを告げる。

 

王に忠誠を誓う騎士たちの援軍。

 

「エオルの子らよ!王の御元へ!」

 

訪れる奇跡的な勝利の瞬間。

 

夜のあとに必ず朝が来るように

どんな暗い闇も永遠に続くことはないんです。

 

新しい日がやってきます。

太陽は前にも増して明るく輝くでしょう。

 

この世界には命をかけて戦うに足るすばらしいものが、あるんです

 

われわれの生きるこの世界も。

 

閉塞感なるものが社会を覆う。

孤独と孤独が肩を寄せ合って生きている。

 

死に至る病が、

もうそこまで迫っている。

 

それでも、

こころに灯るひとすじの光を感じるはずだ。

 

愛する人とのかけがえのないひととき。

いのちが育まれる奇跡。

父祖が愛したうつくしい大地。

 

生きるに足るものが、

愛するに足る世界が、

 

まだ、ここにはある。