第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

小さなブーケ

母は可愛らしい花が好きだった。

 

大きな花よりも小ぶりな花を愛でることが多かったように思う。

 

「思う」と、あいまいな表現になってしまうのは、生前、母に花を贈ったことが数えるほどしかなかったからだ。

 

今思えば、とんだ親不孝だったと思う。

 

形にせずとも伝わるという驕り。

気恥ずかしさ。

 

人は時につまらぬ感情で、大切な人を

ないがしろにするものだ。

 

そして、大切な人がいなくなったその時。

 

伝えきれなかった愛の数だけ、

後悔の涙を流す。

 

その涙の苦さを知ってから、

節目に花を供えるようになった。

 

今日は、母の誕生日。

 

ピンクや赤の花がかわいらしい、小さなブーケを買った。

 

「あら、かわいいわね!」

 

そんな風に喜ぶ母の声が聞こえた気がした。