第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

【短編小説】その少女 #1

夏の日差しがまぶしかったのを覚えている。

窓越しに差し込んだ光線は、ジリジリと響く蝉の鳴き声と共に、宴会場の畳を照らしていた。

その陽を背に受けながら、幼い私は瓶ジュースの王冠の群を畳の上に並べていた。キラキラと光沢を放つそれらを眺めていると、退屈な時間がいくらか慰められるような気がした。

 

父方の祖母の葬儀。

私は10歳ほどであったと記憶している。

 

正直な話、私はこの祖母があまり好きではなかった。

頬がこけ、鋭い目をギラギラさせて、子どもと言えど、容易に立ち入らせない何ものかを感じさせるその人に、私はついぞ愛着を覚えることはなかったのだ。

 

だから、祖母の葬儀と言っても、どこか他人事のようで、終始退屈であったことを憶えている。

それだけ退屈であれば、この光景も記憶の奥深くに押しやられても不思議ではないのだが、ある種強烈なイメージを伴って私の中に残っているのは、別に懐かしさや哀愁のせいではない。

 

子どもの鋭すぎる勘が、大人たちの欺瞞を見抜いた最初の記憶だからであった。

 

「お母さぁん!!」

 

つい数刻前に、父の長姉は、火葬場へ向かう棺にすがりつくようにして慟哭していた。

だがどうであろう、いま目の前で参列者を接待するその人は、実に晴れやかな笑顔で、瓶ビールをふるまっている。

私は子どもながらに、そこには初めから哀しみなど存在しなかったことを、直感的に感じ取っていた。