「今の周也くんと同じくらい・・」
周也は心の内でその言葉を反芻(はんすう)した。
アルバムを周也に返すと、大叔父は抜き取った写真を入れなさい、と小さな菓子箱を渡し、そのまま隣の部屋に戻っていった。
襖(ふすま)越しにガタゴトと遺品を整理する物音が響いてきたが、それは周也にひとりの時間を与えようとしているのだと、彼にはすぐにわかった。
周也は大きく息を吐くと、もう一度手元の写真を眺めてみた。
今の自分と同じくらいだと言われた写真の中の母。
不思議だ、と思った。
母にも自分と同じ年頃があったのだ、というその当たり前の事実が、あまり実感をともなってくれない。
周也にとっては、母はどこまでも母であったのかもしれなかった。
きれいに着飾り、娘らしい愛くるしさを感じさせる写真の中の母は、息子である彼には少しこそばゆい。
それでもその笑顔は、たしかに彼の知っている母そのものでもあった。だからこそ、その懐かしいぬくもりが、いまの彼には耐えられない。
周也は目に熱いものを感じて、写真をていねいに台紙からはがすと、もらった菓子箱の中に入れた。
気づけば西陽が窓を通して静かに部屋の明暗を分けている。その光は暗い部屋を横切って、菓子箱の上に淡い帯を添えていた。
ふと窓の外に目をやると、ちょうど写真の母が背にしていた庭木が見えた。