第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

【連載小説】第1章 百合の花 #2

「今の周也くんと同じくらい・・」

周也は心の内でその言葉を反芻(はんすう)した。

アルバムを周也に返すと、大叔父は抜き取った写真を入れなさい、と小さな菓子箱を渡し、そのまま隣の部屋に戻っていった。

襖(ふすま)越しにガタゴトと遺品を整理する物音が響いてきたが、それは周也にひとりの時間を与えようとしているのだと、彼にはすぐにわかった。

 

周也は大きく息を吐くと、もう一度手元の写真を眺めてみた。

今の自分と同じくらいだと言われた写真の中の母。

不思議だ、と思った。

母にも自分と同じ年頃があったのだ、というその当たり前の事実が、あまり実感をともなってくれない。

周也にとっては、母はどこまでも母であったのかもしれなかった。

きれいに着飾り、娘らしい愛くるしさを感じさせる写真の中の母は、息子である彼には少しこそばゆい。

それでもその笑顔は、たしかに彼の知っている母そのものでもあった。だからこそ、その懐かしいぬくもりが、いまの彼には耐えられない。

 

周也は目に熱いものを感じて、写真をていねいに台紙からはがすと、もらった菓子箱の中に入れた。

 

気づけば西陽が窓を通して静かに部屋の明暗を分けている。その光は暗い部屋を横切って、菓子箱の上に淡い帯を添えていた。

 

ふと窓の外に目をやると、ちょうど写真の母が背にしていた庭木が見えた。