第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

強迫性障害という病について

裏・自己紹介②

何事においても、2回目は重要である。

 

深夜のアニメにしても、ドラマにしても、シリーズものの映画にしても、だいたい2回目で次回以降も見続けるか、否かを判断するものである。

 

スター・ウォーズ EP8』でレイア姫が宇宙空間を飛んだ瞬間に、

 

「あっ、終わった・・」

 

ってなった人も多いだろう。

 

2回目は大事なのである。

 

さて、自分語り2回目。

 

これだけハードル上げてしまうと書きづらい。。

すでになにやってるんだ、自分、である。。

 

進路というモンスター

 

中学時代のいじめを敵前逃亡して逃げ切った僕も気づくと高校生になっていた。

 

 

この頃になると、少しだけ学校生活にも慣れて、だらだらと毎日を過ごすようになっていた。

 

学校に行って、帰宅部だからまっすぐ家に帰って、テレビをみる。

 

たったそれだけの毎日。

 

「平和ってこういうことを言うんだろうなあ」

 

なんて間の抜けたことを考えていたように思う。

 

唯一嫌なことがあるとすれば、たまに訪れる定期テストくらい。

 

成績は中の上くらいをキープしてたように思う。

 

勉強もそこまで嫌いじゃなかったし。

 

でも高校に上がると、急に先生達が真面目な顔をするようになって言うのである、

 

「お前ら大学受験、進路、ちゃんと考えろよ?」

 

進路、とは?

 

やっと思春期なりに女の子に意識が向き始めたクソガキには、セックスすら現実味がないわけで。

 

ましてや「進路」なんてワードはふわふわっとしか感じられないのである。

 

このふわふわ、がやっかいだった。

 

ふわふわは現実味がないくせに、なぜかとても大事なことのような気がして、でもどうしたらそのふわふわを掴めるのか、が分からずにあたふたするしかないのである。

 

そりゃそうだ、大人になった今でも、そのふわふわは相変わらずふわふわですから。

 

でも馬鹿正直な僕は、それがいけないことのような気がして、だんだんと苦しむようになった。

 

その頃からだ。

 

それまで普通にやってたこと、例えば本を読むとか、勉強するとか、そういう類のことが、なんだかバカみたいに時間がかかるようになっていた。

 

今、僕は間違いを犯したのではないだろうか

 

そんな考えが頭を支配するようになった。

 

間違ってはいけない。

取りこぼしてはいけない。

 

さもないと、ふわふわを掴めない。

 

つかめなかったら、どうなってしまうんだろう。

 

きっと良くないことが起きる。

そうだ、そうに違いない。

 

そんなことばかり考えて、それがずっと頭にこびりつくようになった。

 

怖いから、何度も確認するようになった。

 

同じ文章を何度も読んだり、何度も何度も戸締りをしたり。

 

だんだんとヒートアップして、頭は「完璧」の二文字を求めるようになった。

 

正確には、その二文字以外は許さないようになっていった。

 

すると、視界に入るもの、耳に入るもの、全てが苦痛になっていった。

 

なんでこの世に存在するものはこんなにも完璧じゃないのだろう。

なんでこんなにいびつなんだろう。

 

嫌だった。

気持ち悪かった。

 

自分の心臓の音すら、息をすることすら苦痛で、生きることがそのまま地獄になっていった。

 

気づくと学校に行く、なんていうことは異次元で。

外に出ることすらできなくなっていた。

 

唯一、自分が完璧だと感じられたのは音楽だけだった。

 

音楽はどこまでも美しくて、たとえ不完全でも無敵な気がした。

 

ゴリゴリに歪んだギターの音だけが、友達だった。

 

そうやって、部屋にこもって、ひたすら音楽を聴くようになった。

 

ひきニートの完成である。

 

あのね、それ病気なんだよ?

 

出席日数ギリギリで高校を卒業する頃、やっと自分が病気であることを知った。

 

強迫性障害

 

というらしい。

 

学校が筑波大学の系列だったこともあって、すぐに大学病院の精神科を紹介してもらった。

 

自分はいよいよ終わったと思った。

 

太宰治の『人間失格』が頭をよぎった。

 

どこにも行けないような、そんな感じ。

 

流れ作業のように、診察室に吸い込まれては出て行く患者さんたち。

 

その患者さんたちの一人になった。

 

見慣れない診察室に入る。

嫌な感じ。

 

「で、今日はどうしたの?」

 

けだるそうな声で問いかけるお医者さんを前にして、今まで起きたことをポツリポツリと説明する。

 

「あー、そう、そしたらね、お薬出しとくから、これ飲んでね。お大事に」

 

結局、一度も目が合わなかったな。

まあ、いろいろ聞かれるのもだるいし、いいや。

 

抗うつ薬デビュー。

 

なんだろうな、全然効いてる気がしない。

 

「じゃあ、安定剤も出しとくから」

 

精神安定剤デビュー。

 

なんでかな、最近寝付けないんだな。

 

「じゃあ、睡眠導入剤睡眠薬出しとくから」

 

睡眠薬デビュー。

 

んんん?

気づくと片手いっぱいに薬を握りしめてるぞ。

いいのか、これは?

 

いいわけなかった。

 

朝起きると意識はフラフラ。

夜は謎の不安感に襲われて動悸がする。

 

病気が良くなるどころか悪化してないか?

 

食後の薬を飲むためだけにご飯を食べ、見たくない現実と聞きたくない雑音をシャットアウトするために、部屋にこもってひたすら音楽を聴く。

 

そんな毎日。

 

僕が16歳から19歳までの話。

 

我ながらかわいそうだったなと思う。

 

一番楽しい時期に、青春なんてものと一番遠い世界で、息をひそめながら生きていたのだから。

 

でも一番かわいそうだったのは、ずっと心配してオロオロしていた母親だったのだけど。

 

ごめんね、母さん。

 

思ったよりも長くなりそうだね、独白録。

 

続きはまた次回。