第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

父親と殺意と新しい一歩(裏・自己紹介③)

困った。

なんだか語り出すと、意外と語るべきことの多さに気づき、どう進めていこうか、と悩むわけである。

 

特に今回語るべきことはかなりヘビーになる気がする。

 

もう過ぎたことだし、できるだけフラットに書きたいと思うけれど、淡々と書くのも嘘な気がする。

 

人間はどこまでも感情で生きる生き物だからね。

 

うん、思うがまま、筆を進めようと思います。

例によって、付き合ってくれる物好きな「あなた」に感謝。

ここまでくると愛してるって言いたくなるレベル 笑笑

 

目次

 

 

みんな死んじゃえばいいのに

さて、前回病気のことをお話ししたと思う。

 

その頃、実は同時進行で発生していたのが、「無職の父親」問題。

 

僕がちょうど闘病生活を始めた頃、父親は会社をクビになった。

リストラというやつ。

 

よくある話。

 

心機一転、マルチ商法でもやってみるとか言い出す。

 

これもよくある話。

 

「おまえ、病気なんだろ、このサプリ飲めよ」

 

息子をモルモットにするクソ親父。

 

またまたよくある話。

 

・・って、いやいや、ちょっと待ちたまえ、ワトソン君。

 

たしかによくある話なんだけどさ、病院でモルモットにされ、家でモルモットにされるモルモットの気持ちって考えたことある?

 

つぶらな瞳がかわいいね。

 

じゃねえよ、バカやろう。

 

この頃からだと思う、僕がやたらとメタルとか聴くようになったの。

 

もう頭の中はフラストレーションでいっぱい。

もっと露骨にいえば殺意。

 

患者の目を見ようとしない医者も、口先ばっかりの先生も、何考えてるかさっぱりわからないクソ親父も、みんな死ねばいいのにってそればっかり考えてた。

 

若気の至り。

いや、すでにこの頃から持ち前の短気を発揮してたのかも。

 

そんなこんなでマルチに手を出し、

 

「クイーンエリザベス号で世界一周だ!」

 

とかありがちな妄想を話し出す父親。

 

半年もすると、現実を痛感したのか、普通のひきニートに。

どうしましょう、家にニートが二人も誕生してしまったよ。

 

笑えない話である。

 

あまりの父親の惨状に、さすがの母親も我慢の限界を迎えたらしい。

 

ある時、珍しく相談を持ちかけてきた

 

「あのね、ちょっと相談があるのだけど・・」

 

嫌な予感である。

 

「お父さんとね、離婚しようと思うの」

 

うん、いいと思う。

っていうか、よく今まで我慢してたよね。

で、それは本人に伝えたの?

 

「うん、伝えたのよ、だけどね・・」

 

なんだかその後の話は聞きたくない気がする。 

 

「嫌だって言われちゃってね」

 

でしょうね。

 

その頃父親は家にいるのが気まずいのか、母親に小遣いをせびってはどこかに出かけるという、ヒモ生活をしていたから、納得 of 納得なわけである。

 

今離婚されたら、生きていけないもの、ね。

 

「それでね、申し訳ないんだけど、一緒に説得して欲しいの・・」

 

ガッテン承知の助!!

と威勢良く引き受けたようなそうじゃないような。

 

いずれにせよ、その時に僕はもう決めていた。

 

父親を殺して、僕も死のう。

 

家族を養う気のない父親も。

病気で暴れまわる息子も。

この家にいてはいけない気がする。

 

だったら、20年間の恨みを晴らして、気持ちよく死んでやろう。

 

その後何が起きたかは、あなたのご想像通り。

 

母親が必死に止めてくれなかったら、僕は刑務所送りになって、新聞の片隅をかざっていたかもしれない。

 

「無職の少年、父親を撲殺」

 

よくある話。

今日もどっかで繰り返される悲劇。

だれも見向きもしないけど。

 

クソみたいな、美しきこの世界。

 

そして、最期

そんなこんなで、両親の離婚が決まった。

僕が力づくで別れさせた、と言ったほうが正確だろうか。

 

その頃には僕も人より遅れて大学に行くことが決まっていたし、新生活に便乗して、僕と母と弟は家を出て行くことになった。

 

その日が目前に迫った時だったと思う。

 

父親の部屋から絶叫と暴れる物音が聞こえたのは。

 

いわゆる発狂ってやつ。

 

オロオロする母親に

 

「ざまあみろだね」

 

って、アナ雪のエルサも凍る一言を投げた自分だけは覚えている。

 

そして、僕らは家を出た。

 

その数年後、父親は孤独死したらしい。

 

回収されない大量の新聞。

開けっ放しの窓から24時間漏れるテレビの光。

 

近所の人の通報で発見されたらしい。

 

ちょうどあたたかい陽気のせいで腐敗が進み、身元確認に訪れた父方の親族すら識別できない状態だったらしい。

 

その知らせを母親から受けた時、僕は

 

「祝杯をあげる」

 

と言った。

 

でも正直、全然スッキリはしなかった。

最後の最後まで人様に迷惑をかけた父親が許せなかった。

 

大人よ、覚悟を決めろ

 

両親はどちらも売れ残った同士、晩婚も晩婚だった。

 

だから、父親にとって、家族は邪魔でしかなかったのかもしれない。

 

家族を見るたびに、「俺の人生、こんなはずじゃなかった」と思っていたのかもしれない。

 

その気持ちは少しだけ分からないでもないけれど、ふざけんな、である。

 

家族を愛せない世の中の親たちに言いたい。

 

甘ったれんな、覚悟を決めろ!!

 

家族を愛するか。

家族を捨てて、自分の幸せを手にするか。

 

選択するのは「てめえ」なんだよ。

悲劇のヒーローぶって、その感情を家族になげつけてんじゃねえ。

 

家族を大切にしようとしない人、クソ野郎だよ、ほんとに。

 

ごめんね、優しくないから、僕は。

 

 正直、これでもだいぶ端折ってしまったのだけれど。

 

似たような修羅場が何度も、僕の家庭では繰り返された。

もう今となってはよく思い出せない。

 

だけど、たしかにあの時に負った傷と業を僕は背負って、今を生きている。

 

拭い去ることはできない。

 

今でも時々訳もなく胸が苦しくなる。

 

業ってそういうことだと思う。

 

だからこそ、僕は、絶対に決めている。

 

明るく、前向きに生きてやる、と。

 

「苦労は買ってでもしろ」

 

と人は言う。

 

本当の苦労を知らない人の言葉だな、って思う。

 

苦労をしないに越したことはない。

 

背負わなくてもいい業を背負う必要はないのだから。