僕があなたに呼びかけるのは、何十年ぶりでしょうか。
いや、ほとんど初めてと言ってもいいかもしれない。
思えば、僕はあなたと言葉らしい言葉すら、交わしたことがありませんでしたね。
親子というより、ほとんど赤の他人だった。
7年前のちょうど今頃、あなたがひっそりと亡くなったと風の噂で耳にしました。
「最後の最後まで人様に迷惑をかけて」
と、母さんも僕もあなたに怒っていたことを覚えています。
そして、今日の今日まで僕はあなたを許さずに来てしまった。
けれど、よくよく考えるまでもなく、僕はあなたの息子でした。
「憎い憎い」と言いながら、顔形は年々あなたに似ていきました。
僕はそんな自分が嫌いだったのです。
しかしそれは、あなたに愛されたかった想いの裏返しだった、と今日気づきました。
僕は間違いなく、あなたの息子として生まれてくることを選んでやってきた。
そして、あなたと同じ心の傷を抱えることになった。
今なら、あなたの苦しみが分かるような気がします。
いつも家族を避けるように家を出て、寝静まった頃に帰ってくる。
家族と一緒の時はいつもお酒を飲んでいた。
そうでもしないとやってられなかったのでしょう。
あなたはきっと、自分にこう問うていたのではないですか。
「俺の人生はこんなはずじゃなかった」
と。
あなたにも、本当は愛していた人がいたのではないですか。
でもきっと、縁を結ぶことができなかった。
愛してもいない人と結婚する羽目になった。
生まれた子どもを愛することができなかった。
でもきっとそれは、あなただけのせいではなかったのです。
今なら、僕にはあなたの気持ちが分かります。
なぜなら、あなたと同じ道を歩んでいるから。
僕は間違いなくあなたの息子だから。
だから、今日この日をもって、僕はあなたを許します。
いや、むしろ許して欲しいのは僕の方です。
ずっと憎んでしまってごめんなさい。
この命があるのは、紛れもなくあなたのおかげです。
あなたのおかげで、愛がなにかを知ることができた。
たくさんの学びを得ることができた。
父さん、ありがとう。
どうか、安らかに眠ってください。
息子より