第四人称の語り部

コトバを生きる日々/ 俳人 /【俳句てふてふ】▶︎▶︎川辺一生

コトバをつむぐ

言葉はときに、単なる言葉以上の ちからを持つことがある。 大切な人の言葉にホッとして、涙があふれる。 憧れている人の言葉が、生きる糧となる。 こころに響く言葉。 人を生かす言葉。 哲学者の井筒俊彦は、そうした言葉を 「コトバ」と呼んだ。 オースト…

朝の習慣。夜の習慣。

習慣やルーティンというものを 持たずに生きてきた。 めんどくさがりが災いして 何事も続かないのだ。 そんな中、今年に入ってから 朝と夜に「書く」ことを始めた。 自分との対話が必要だった。 用意するものは、ノートとペン。 書き出す内容は決まっている…

死に至る病

デンマークの思想家セーレン・キェルケゴールによれば、人間には死に至る病がある。 絶望である。 映画『ロード・オブ・ザ・リング』は、絶望を描いた作品だ。 冥王サウロンに率いられた闇の軍勢が、平和な世界を襲う。 繰り返される戦争と虐殺。 絶望の闇が…

愛とは

カトリックの司祭で優れた神学者であった井上洋治神父は、人が大きく生まれ変わる瞬間について、こう述べている。 自分の弱さ、卑怯さ、みにくさすべてが”ゆるされている”と感じたとき、人は初めて変わる。 『わが師イエスの生涯』 こんな自分であるのに、ゆ…

母が亡くなってから1年ほど、 目覚まし時計のいらない朝が続いた。 頬を伝う涙に気がついて、 目が覚める。 それが朝の日課になった。 愛する人を失う。 愛する人のいない朝を迎える。 降り注ぐ朝の光が 重い。 家族の再生を描いたドラマ『This is us』 最愛…

かれの祈り

いま、思い出している。 その老人は食卓につくと いつも決まって少しばかりの微笑を浮かべながら、 三つの指を合わせて、そっと十字をかいた。 細く、シワだらけの やさしい指先。 仰々しい祈りの言葉は口にしない。 ただゆっくりと、短く、十字を描く。 そ…

【短編小説】その少女#2

私が不信感を感じたのは、それだけではなかった。 忙しく動き回る叔母から少し離れた壁際の座卓の側に、ひとりの女子高生が座っている。 彼女と会ったのは昨日の通夜の席が初めてであったが、その時からずっと、私は彼女のことが気になって仕方がなかった。 …

【短編小説】その少女 #1

夏の日差しがまぶしかったのを覚えている。 窓越しに差し込んだ光線は、ジリジリと響く蝉の鳴き声と共に、宴会場の畳を照らしていた。 その陽を背に受けながら、幼い私は瓶ジュースの王冠の群を畳の上に並べていた。キラキラと光沢を放つそれらを眺めている…

【自作詩 #5】安息

暗闇と 静けさのなかで ねむっていたい

小さなブーケ

母は可愛らしい花が好きだった。 大きな花よりも小ぶりな花を愛でることが多かったように思う。 「思う」と、あいまいな表現になってしまうのは、生前、母に花を贈ったことが数えるほどしかなかったからだ。 今思えば、とんだ親不孝だったと思う。 形にせず…

【自作詩 #4】『同じコトバ』

コトバが通じない これほど哀しいことがあるのだろうか あなたと同じコトバで話したい あなたと同じコトバで愛を交わしたい たったそれだけのこと 本当にたったそれだけのこと

【自作詩 #3】『歌声』

いま、あなたの歌声が、たしかに聴こえる 軽やかなその音色は いつまでたっても、鳴りやまぬ あなたはもう、歌になってしまった どこにだっていけるのに どこにだっていけるから こんなにも遠く こんなにも近く あなたが、聴こえる あふれる涙がこころを伝う…

【自作詩 #2】

初売りの 買い物袋が揺れている 手をとり 腕を組み 行き交う家族 恋人たち どの顔も晴れやかで 場違いなのは私だけ 重箱も おせちも 過去の記憶 つめたい部屋に帰れば たったひとり ほかほかのコンビニ弁当は ちっともこころをあたためやしない せめてものな…

【自作詩 #1 】

霊感などない私には そのひとの声は聞こえない それでも霊性はこの身に宿る たしかな経験とこころを通じて そのひとのコトバは呼びかける 差し出された手のあたたかさ 古い書物のやさしいコトバ 通り過ぎた出来事 目に見えないからこそ 目に見える形で 目に…

【連載小説】第1章 百合の花 #3

周也は立ち上がると、縁側の重たい窓をゆっくりと開けた。すぐにひぐらしの歓声がどっと迫ってきて、じっとりと生ぬるい空気が肌にまとわりついてくる。彼は身を乗り出すと、くたびれたサンダルをつっかけて、庭先に降りてみた。 広々とした庭は軒先をぐるり…

【連載小説】第1章 百合の花 #2

「今の周也くんと同じくらい・・」 周也は心の内でその言葉を反芻(はんすう)した。 アルバムを周也に返すと、大叔父は抜き取った写真を入れなさい、と小さな菓子箱を渡し、そのまま隣の部屋に戻っていった。 襖(ふすま)越しにガタゴトと遺品を整理する物音が…

【連載小説】第1章 百合の花 #1

一枚の写真がある。茶色くくすんだカラー写真。庭木をバックに、両手を広げた笑顔の女性がアップで写っている。周也(しゅうや)はアルバムをくる手を止めて、その写真に見入っていた。畳にあぐらをかいていたから、ちょうどその古いアルバムをそっと抱くよう…

【連載小説】はしがき 〜さよなら、絶望〜

家族に会いたい、と想う。 母が亡くなって、ずいぶんと月日が流れた。 もう全てが終わったような気がして、何もかもが嫌になったあの時から、 彼岸の家族とまた会うその時に、 笑顔で再会できたらと、 いま、この時を生きている。 不登校支援の仕事で子ども…

拝啓、父さんへ

僕があなたに呼びかけるのは、何十年ぶりでしょうか。 いや、ほとんど初めてと言ってもいいかもしれない。 思えば、僕はあなたと言葉らしい言葉すら、交わしたことがありませんでしたね。 親子というより、ほとんど赤の他人だった。 7年前のちょうど今頃、あ…

真っ白のページ(裏・自己紹介⑤)

さて、自分語りもいよいよ佳境です。 今回と次回でたぶん終わると思う。 先に断っておくと、今回は自死に触れます。 鬱々とした気分になりたくない人は見ない方がいいかもしれません。 それでも読むよ、っていう物好きで勇気あるあなた。僕は大好きよ。 モノ…

アボカドとオレンジ(裏・自己紹介④)

愛していたんだっけ? 今じゃもうよく覚えてないけど 今もあの時のことばっか思い出しちゃうの、バカだよね youtu.be yonigeを聴いてると思うのである。 ボーカルが元カノさんに似ておるなぁ と 笑笑 いや、まあ、あの子もバンドやってたけどね。 それにして…

父親と殺意と新しい一歩(裏・自己紹介③)

困った。 なんだか語り出すと、意外と語るべきことの多さに気づき、どう進めていこうか、と悩むわけである。 特に今回語るべきことはかなりヘビーになる気がする。 もう過ぎたことだし、できるだけフラットに書きたいと思うけれど、淡々と書くのも嘘な気がす…

強迫性障害という病について

裏・自己紹介② 何事においても、2回目は重要である。 深夜のアニメにしても、ドラマにしても、シリーズものの映画にしても、だいたい2回目で次回以降も見続けるか、否かを判断するものである。 『スター・ウォーズ EP8』でレイア姫が宇宙空間を飛んだ瞬間に…

名刺と32年

裏・自己紹介① 名刺を増刷しました 「名刺」ってどぎついよね。 「名を刺す」ってさ。 逃げられない感じ。 覚悟とか。 夢とか。 志とか。 全部串刺しにして差し出すんだもんね。 うん、やっぱ大事。 名刺。 僕の名刺はいたってシンプル。 といえば聞こえはい…

世界一ゆるいクリスチャンの日常

※注:だいたい合ってるけど、だいたいふざけてるのでご注意ください とある日曜日 朝起きる。 祈る。 そのまま外出。(礼拝のある日の朝は断食) 電車に乗る。 オッサンと肩がぶつかる。 舌打ちされる。 (はぁ!?お前がぶつかってきたんだろが、◯ね!この◎△$…

キリスト教と性道徳

クリスチャンとして思うこと 最近常々感じることがある。 キリスト教って誤解されてるなあ である。 日本に正式に入ってからたかだか150年くらいの新米宗教なので、しょうがないよね、と思いつつ。 もっとちゃんと知ってもらう努力が必要 なんだろうなと感じ…

日本人と言葉と魂と・・

「大和国は 言霊の幸かふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり」 これは歌人・山上憶良が日本という国の国柄を詠んだ長歌の一節です。 (我が国 日本は、古くより言霊に対する信仰を 語り継ぎ、言い伝えてきた) 日本人は古来より「言葉には魂が宿る」と考え、大切に…